銀杏の話

昭和6年に崇仁小学校の校庭に植樹されたイチョウの写真と、樹にまつわるお話です。

イチョウは、伊東茂光校長の好きな樹だったといいます。伊東校長は、郷里鹿児島にいた時から空に枝を伸ばすイチョウの姿を好み、崇仁においては、新校舎設置の際に植樹し、終戦直後、小学校を去る時には髪とひげを根元に埋めるほどでした。

時代は変わって、私は滋賀県で生まれ、大学に入学して京都に来ました。昭和6年から同じ場所に立ちつづけるイチョウの姿は、そんな私と、私が生まれるずっと前の出来事が、途切れずに繋がっていることを思い出させてくれるような気がしました。

 

展示期間:2021.3.15 – 4.30

展示場所:さたけ 京都府京都市下京区西之町111 崇仁市営住宅1棟 1F

 


 

 


 

私は知らない、その木がどこで芽吹いたかを。
知らない、木がここに来た時、どんな風が彼のひげを撫でたかを。
知らない、彼が彼女に話しかけた時、風から汽車の匂いがしたかどうかを。
知らない、彼女が彼のことを娘に語った時、光がどんな暖かさだったかを。


私は知っている、樹がずっとそこにあることを。
知っている、夕陽が樹をすこしだけ暖めることを。
知っている、娘は大人になって、彼と彼女のことを語ることを。
知っている、その時いつも、風がすこしだけ吹いていることを。