2023.05.18

すこし昔、おとなと呼ばれる歳を少し外れた頃、

山に雪が白く積もったと言う理由だけで

夜中に山の腹の中に入ったことがある。

 

山の入口は何かを飲み込むみたいに大きく穴を開けていたのを恐ろしいと思いながら足を踏み入れたのを思い出す。

 

森の中は暗く静かだった。

大きな音がしないとなると澄ませるのは目と耳で、

小さな枝や葉が揺れる音が鼓膜の際で鳴った。

 

暗闇が身体の輪郭を溶かすのに反比例して、

その気配や音が身体の皮膚を粟立たせた。

 

小さい頃、暗闇になった瞬間、

目を瞑ってしばらくしたら

よく見えるようになることをいつからか知っていた。

 

溶岩でできた洞窟の中でライトを消した時、

遠近感が分からない水滴が聞こえた。

穴から出た時の緑の彩度。

 

殻から出る時の刷り込みがこのようだったら、

それはそれで恐ろしいなと思う。

 

鮮明さのある言葉とは

こんなものな気がする、

自分が見つけたことを強く信じすぎてしまうこと。

淡い言葉ほど、言葉にならなかった言葉ほど皮膚に染まない。

 

鋭利さを、言葉の、尖りを自分の中で研いでは、

チグハグに麻布から飛び出て自分の指を切る。

 

固まった言葉が、経年で硬化すれど錆びすら匂ってくるので、

 

どうか昇華の一途を辿ってと