寝具の中の雷雨
2023.04.17
日中とても懐かしさを感じる天気だったから
はじめるのは今日がいいと思った。
幼い頃、初めて手にした銀色の冷たいiPodの中に
天気の音を重ねられるアプリをいれていた。
随分と昔から眠るのが苦手な私は、
夜な夜な決まって雨の音で眠った。
小雨や雷の音を追加して、
音量をインターフェイス越しに
好みの大きさに合わせては、
漣のような雷雨や、
乱気流の中の音を作っては保存し、
付属の白い丸いイヤフォンで耳を閉じた。
ツタヤに自分の好きな音楽を探して借りに行く小遣いもなければ、図書館にある古い音楽を熱心に借りるほど音楽を欲していなかったのかもしれない。
ただ一枚、図書館で借りた真っ白なジャケットの
一曲だけ
ブルーの16GのiPod nanoにインポートして繰り返し聞いた。
繰り返し
当時は気に入ったその一曲、
その一曲のような音楽がどこにいけば、
どこを探せば聴けるのか、
そういう孤独さがあった。
キーボードを打つだけになっていた古いWindowsから
音楽を探して落とすといった知識は、
片田舎の機械音痴である私には遠い知識だった。
音楽を聴くとなれば朗読教室に通っていた頃に使っていた
チープなブルーのちいさいラジカセ(すこし近づくとプラスチックと鉄の匂いがした)を使っていた。
銀色の伸びるアンテナで、ラジオから流れる曲を、
装填したカセットへ、MCの声が切れるタイミングで
録音ボタンを押すときの息の止め方を思い出す。
iPodを買う前は中学指定のリュックにラジカセをつめて、
イヤホンをして通学路を歩くと、
生真面目な部分の私は不良の気分を味わった。
でも眠る前は決まって、そのアプリを立ち上げては、
遠くの雷鳴に、
吹きさらされる雷雨に、
青草が香りそうな小雨を夢の入り口としていた。
今日の天気、雷雨の音がなんだかなつかしくって
胸を鳴らして聞いていたら
雨が降る前に開けていた窓、ブラインドに叩きつけられる雨の音で部屋が濡れているのに気づいて、
なぜだかそれが嬉しくて声を出して少し笑った。